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午後の陽射しはやわらかくて、赤く色付いた樹々の葉がもう夏がどこにも残ってないと告げている。風はあまりなくてまるで暖かな毛布に包まれているみたい。
まだ緑が残る芝生にピクニックシートを敷いて文庫本を読んでいたけど、こんなお昼寝日和には頭もうまく働かない。本の中の主人公がヒロインを抱きしめようとする辺りでふわっと意識が途切れた。
「先輩」
どこかで声がする。まるで幸せな夢の続き。
「柊子さん、そのまま寝てると風邪ひきますよ」
まるで本当に私に声をかけられているみたい。
「寝てるなら放置しますけど」
あ、これはどうやら現実らしい。
最後の言葉で初めて目が覚めた…みたいに鼻を鳴らしてゆっくり目を開ける。思ってたのより少しだけ後ろに、征也がいた。所在なさげにピクニックシートに座って、缶コーヒーを2本持ってる。
「起きました?呼び出しといて寝てるとか大胆ですよね」
「ごめ。おひさまの光が幸せで」
「でしょうね。すげえ幸せそうな顔してましたもん」
一気に夢を思い出して顔が赤らむのが分かる。バレてないといいけど。
夢の中で本の主人公はいつの間にか征也に変わっていて、抱きしめられようとしているのは私になっていた。何か耳元で囁かれた気がするけど覚えていない。
征也のことを私が好きなのを、征也は知らない。
「なに読んでるの?最近」
「最近はミステリの中でも社会派に凝り始めましたよ」
身体を起こした私に、征也は言いながら缶コーヒーを置いて正対し、鞄から文庫本を二冊出した。
高校の時に仲がいい先輩後輩で、お互い本が好きで、外でまったりするのが好きで。約束があるわけじゃないけど、卒業して二年経ってもいまだに時々こうやってたまに待ち合わせしてゆったりした時間を過ごす相手。きっと征也はそう思ってる。というか、私もそう思ってた。
去年の今ごろ、話している征也の顔がやけに眩しく見えた。いつの間にか、本の話をすることと同じくらい征也に会えるのが楽しみになってた。
今日は本の話だけじゃない。
一年温めた想いは、いつの間にか心からあふれそうになっていた。そしてそんな気持ちを抱き続けたまま先輩が後輩と会い続けるのは…何だか少し卑怯な気がして。
征也のことが好きだから、征也に対してはフェアでいたい。
「私が最近好きなのはこの辺りかな」
言いながら私は読みかけの本の表紙を見せる。先輩と後輩の恋愛話。
果たしてこの会話の先に私は勇気が出せるのだろうか。
お昼寝日和の午後は、きっと告白日和。
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