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「え…………?」
「叔父様達は何処へ出掛けましたの?」
突き刺して来るような、史星の眼差し。それは美しくも鋭い薔薇の棘だった。眼力にたじろいだ大和へ更に追い込むが如く台詞を復唱する。
沈黙が追い打ちをかけて来た。薄暗い部屋の中、射し込む月光に負けないくらいに史星の目は強い眼光を湛えている。大和は唾を飲み込んで気休めに喉を潤すと、口を開いた。
「……具体的な場所迄は分からない。只、都心のレストランで夕食に出掛けたのは確かだ。何でも……倖南の大会準優勝祝いだとか……」
大和には両親以外に、もう一人家族がいた。それが当時中学一年の妹――倖南。邪見にされている大和と違い、倖南は溺愛されていた。しかし大和に対する接し方は、両親同様限りなく冷たいそれだった。恐らく史星は――倖南も同じくらい憎んでいただろう。そこに、従姉妹だからとか……年下だからなんて慈悲はかけていなかったと思う。
「なんて酷い……どこまでも腐った連中ね。親族だなんて思いたくもないわ。大和様……来週の土日は、出て来られるかしら? わたしと食事に行きましょう。ずっと家にいては、大和様の心が壊れてしまうわ」
「あ、ああ……大丈夫だ。でも今修行が厳しくなっているんだろう? 叔父さん達に悪く言われたりしないのか?」
大和が遠慮がちに尋ねると、史星は先程とはうって変わった明るい笑みで答える。
「そんなことは気にしないでいいのよ。わたしは大和様と……少しでも一緒にいたいから、そうするの。大和様の前では他の人も、他のことも白黒に霞んでしまいますわ」
「…………」
まただ。史星の意味深長な発言に表情を曇らせた大和。史星が自分に抱いている感情――感覚は大和にとって至極慣れないものだった。余り詳しく理解出来ないが、恋愛、慕情、或いはそれらを通り越した執着心。
恋愛?愛情?慕情?好き?嫌い?分からない。だが少なくとも、今の自分に縁のないものであるのは明らかだ。
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