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分からないが故に、突っ込まない。
聞かなかったことにする。
大和は唇を引き結び、押し黙る。史星の顔を見ることが出来ない。申し訳なくて。
「……大和様……どうしたのですか? やっぱり行きたくない……ですか?」
「いや……そういう訳じゃないんだ……」
横目でチラリと史星の顔色を窺ってみた。悲しげな声色と同じ、感情と言葉が一致する表情。素直に――羨ましいと、思った。大和は必要以上に感情を律し過ぎてしまい、悲しくても上手に泣けなくなり、腹立たしくても、怒れなくなってしまっていたのだ。だからこそ、羨ましく感じた。史星の素直さに、心惹かれていた。しかしそれは――恋愛感情であるかと言うと、やはり違うような気がする。
そう。それは――羨望だ。
大和は史星が羨ましかった。
「……俺は史星が羨ましい。みっともないかもしれないが、本当にそう思う」
「大和様……」
向かい側に座っている史星がふと、立ち上がる。そして自分の真横に寄り添うように腰を下ろし、至近距離で見上げて来たその目は涙で潤んでいた。
無意識に心臓が大きく波を打つ。
見方によっては扇情的にすら取れる史星の瞳に――大和は吸い込まれて行った。
何だ……何なんだ、これは。自分が知らない間に――史星はこんなにも変わったのか?
自分の知らない顔をする従兄妹。自分が痛みに耐え忍び、絶望にうちひしがれている時。史星はどんどん変わっていたのか。
大人っぽい雰囲気を放つ史星。微かに漂う香りは香水だろうか。まるで取り憑かれたが如く目を離せなくなってしまう。
史星が口を開く。囁く言葉が、こそばゆく大和の耳へ入り込んだ。
「……大和様……わたし、ずっと貴方が好きだった。大和様を……愛しているの。だから……わたしを、貴方の側にいさせて下さい。貴方と……一緒にいたいの」
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