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今なら前より詳しい話を聞けるかもしれない。羅維納は勢い良く身体を起こし、一人の世界から抜け出した。
「……ああ、そうだ……」
再び席に着いた終が口を開く。そうして羅維納達は――――終の言葉に耳を傾けた。彼らの回想の幕開けだ。
×××××××
史星からの突然の接吻。それは元々沈みがちだった大和の心を著しく乱し、不安定な混乱の渦に巻き込んだ。恋愛感情のなん足るかを知らない大和にとって、只ひたすらに負担でしかなかったのである。
何より自分自身が、そういう目で見られていたと言う事実が恐ろしく感じられた。自分が怖い。史星の心が、気持ちが怖い。
恐怖心による拒絶。大和は翌朝、今迄史星から送られて来たメールと着信履歴を全て消去した。アドレスと番号も指定拒否にして、徹底的に痕跡を消した。携帯電話を操作する手が震える。自分でも知らない内に涙が流れ落ちていた。
――大和は、自分から味方を切り捨てたのだ。唯一無二の味方、支えてくれていた存在を。
ゆくゆくは自分を惨殺した家族にとって、それはとても好都合だっただろう。史星が入れ込んでいる内は、大和に何かがあったら直ぐ様嗅ぎ付けて来るからだ。だが、それがなくなった。他の誰でもない――――大和自身の手によって。
こうして振り返っていると、自分が死ぬ迄手放せなかった絶望への道は自分自身で作り上げてしまったのではないかと思う。自分で恐怖し、拒絶して繋がりを絶った。史星の気持ちに応えることは出来ないにしても、何らかの形で一緒にいれば良かったのでは。まあ……今になって幾ら言っても、全ては後の祭りでしかないのだが。
それから約半年後。大和は殺された。
殺したのは――両親と、妹。
その時のことを思い出すと、四肢の付け根が疼くような……妙な感覚に襲われる。
終は無意識の内に左肩へ手を添えた。――ちゃんと、ある。一呼吸吐き、話を再開した。仲間達は真剣な面持ちで続きを待っている。
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