16人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな終の態度に一抹の不安を覚えた羅維納は、密かに眉を寄せて思う。
もう人間だった時の出来事で、当時の感覚や、感じていた思いが薄れているのかもしれないが、それでも嘗ては拒絶した相手が再度自分に接触して来たのだ。だが、目の前にいる終からはそう言った経緯から来る不安や戸惑い、恐怖心のような感情が見られなかったのだ。
また以前のようなことをされないか、心配にならないのだろうか。そう考えると、無意識の内に言葉が走ってしまった。
「終さんは――あの人と再会したことに対して、どう感じているんですか? 昔の話とはいえ、一度は拒絶した相手ですよね。二の舞になるかも……とか考えたりしないんですか?」
「羅維納さん……」
息苦しさすら感じさせる羅維納の声色を受け、柊がぽつり彼女の名を呟いた。
恐らく柊も羅維納と同じ感情を抱いているのだろう。
史星のあのあからさまな態度では、そう思ったとしても無理はない。終の過去――史星との関係を知ったが故に、なおのこと心配になる。
終は相変わらずの仏頂面で羅維納を見据えていた。鋭さを湛えるその瞳から、やはり不安などは窺えない。
「……お前達が言っていることは、ちゃんと分かっている。それが俺を心配しているからこそだと言うのも。だが、一つだけ言って置きたいことがあるんだ。史星は確かに……嘗て俺にああ言ったことをして来たが、俺にとっては――傍でずっと支えてくれていた存在だ。今では記憶を封印していたことすら申し訳ないと思っている。だから……チームメイトでなくとも、また一から史星と交流して行きたい。史星は拘りも強いし、感情もストレートに出す方だ。衝動的でぶつかることも多いだろう。俺が間に入るから、多少は多目に見て欲しい。史星には、往々にして悪気はないんだ。……頼む」
そう言って、深々と頭を下げる終の姿を見たのは――初めてかもしれない。無表情ではあるが、口調には切実な迄の誠実さが込められていた。
最初のコメントを投稿しよう!