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「父上も一緒だったらよかったですね」
「ん? まぁ、仕方ないよ。王様としての公務も詰まっているし」
馬車に向かって歩きながら父様にそう言うと、父様は笑って答えた。父様は今日は城に残って山積みになった書類の山を片付けるのだという。
「アキト! ノア!」
馬車に乗り込む寸前、呼び止める声にいち早く反応したのは父様だ。だってその声は、父上の声だったから。
「エドワードさま」
「遅くなってすまない。見送りが間に合ってよかった」
そう言ってきつく父様の体を抱き締める父上の姿は、何度も目の当たりにした。この二人は人目も憚らずこうして抱き合っては、しまいには口づけまでも交わす強者だ。
以前、その事について聞いてみると、いつ何が起きるかわからないからだという。まだ不安定な情勢。あちこちで野党や国にたいして不満があるものたちの襲撃がある。国同士のいさかいはなくなっては来ているが、小さないさかいは絶えない。
だからこそ、その一時一時が大切なのだという。だから、人目を気にして、なにかを気にして今したいことを後回しにすることはしたくないのだと頬を赤らめながら父様は話してくれた。
だから、こうして目の前で二人の愛を見せつけられても俺は気にしない。どうか、これが最後になりませんようにと心のなかで祈るばかりだ。
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