違和感

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違和感

 ずっと誰も信用できなかった。人は裏切るもの。そういう思いは消えない。  幼い頃から、命を狙われるのが日常だった。毒には早くから体を慣らされ、その訓練はとても苦しく死にたくなるほどに辛いものだった。  それは、王位を継承する者として。オルコット一族の長男として生を受けた自分に課せられた使命なのだと、幼い頃から教えられてきた。  王である父オリバーも幼い頃から同じように命を狙われながらも生き延び、王位を手にしたのだ。俺も、その道を辿る。  この国では、一応血筋で王位を継承しているが、絶対的にそうではない。これまで王位継承争いに勝ち進み結果としてオルコットの一族が王位の座についてはいるが、いつ奪還されたとしてもおかしくはないのだ。  虎視眈々とその座を狙うものがいる限り、安息の時は来ない。  ビンズの一族とは、長年そのような因縁のもと争い続けている。  だから、例え友好のための婚姻だったとしても、馴れ合うつもりも、信用するつもりもなかった。フォレスタ王国は、今や栄えていたときの面影も乏しい。この婚姻で再起を試みようと躍起になっているのだろう。  タスク王国としては、いずれ衰退したとしてタスク王国の領土にできれば儲けものだという程度の認識での婚姻だ。こちらにとって優位になるように運んだ。  ただ、それだけの相手でしかない。  だから、婚約者としてやって来た姫に、出会い頭に事実を告げたのだ。  ーー馴れ合うつもりなどない と。  そのつもりだった。  誰も信用できない。人は皆、裏切るもの。自分の身は自分で守る。自分を狙うものの手に誰かが倒れることも少なくはなかった。だからこそ、強いものしか回りには置きたくはない。  そう思いながら生きてきたのだ。
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