ファシズムサンタ

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「何故、貴様もついて来るのだ?」  勇ましく出撃したところ、当然の如くサンタに同席している人間を発見した。兄を兄とは思わない、王を王と慕わない、変わった妹アーカディア。その愚妹は、なにやら恐ろしい速度で、宙に浮いた操作盤を叩いている。 「お兄様。サンタは一人では扱えません。5、6人欲しいところなのですが、私以外の開発者は皆……。お陰で操作可能な人材は私だけ」  絶句。期待を掛けた新兵器は欠陥品。デトピアまで直ぐだというのに、この有り様。王は自身の選択の愚かさに狼狽す。 「安心してください。基本は重装甲ソリと一緒です。愚直な精神を持って突撃するのみ」  ならば、その手の動きは何をコントロールしているのか。共感ドライブに色彩フィルターなどの文字がコックピット内を流れている。しかし、今更聞いたところで理解し難い。最早、アーカディアの尻馬に乗る他ない。  精神支配という文字が目の前を過ぎたところで、王の中の何かが切れた。 「奴らの欲しい物は何だアーカディア?」  片側の唇を上げて王は言う。突然の変化に薄紫の髪の女性は驚嘆ではなく、喜色を示した。 「今回の標的である三人のデトピア。彼らは同郷であるそうです。まずはその景色でも、ご覧頂きましょう」  サンタの瞳が眩く光り、今も荒れ狂う三人のデトピアや複数のソリを巻き込んだ。 「見て下さい。デトピア共の足が止まりましてよ」  精神兵器は、既に実用化されているものの全てが、デトピアには通用しなかった。だったら、実際に精神を汚染するビュジュアルを見せてはどうか? それがこの幻視光線。それは、幻ではあるが、手を触れ、大地を踏みしめることすら出来る、ホログラム。彼らには現実にしか見えないだろう。 「続きまして、共感電波。お兄様。受信にはお気を付けを」  アーカディアが操作盤を凪いだ。王は電気椅子の刑に処せられるかの如く、大きく身を震わせた。
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