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続編
中林さんの家と思われるマンションにつく。
一度も中林さんの家という場所に来たことは無かった。
組に泊まることも多かったし、色々なことが分かる様になって中林さんの家が別にあることを理解できるようになってからは、もう、気軽に遊びにいってもいいですか?なんて聞けなかった。
連れてこられた部屋は広くて静かなところだった。
「荷物は明日にでも運ばせるが何か急ぎ必要なものはあるか?」
「いえ、特に……。」
見回した部屋には女の影どころか生活感というものがほとんど無かった。
「若……。」
「若はもうやめてください。」
俺はもうそういうんじゃ無くなったと、先程告げられたのだ。
「……大河。」
「はい。」
ややあってから告げられる名前に面はゆい気持ちで返事をする。
お互いに距離感を測り損ねて何を話したらいいのかも何をしたらいいのかも分からなくなっている気がした。
「中林さんの刺青が見たいです。」
唐突だったし、彼の部屋に来てまずすることじゃないと思った。
けれど、今一つだけ我儘を言っていいと言われたら、叶えたいことはそれだけだった。
中林さんは俺の方に無言で近づくと、それから俺を抱きあげた。
思っていたのと全然違う反応にどうしたらいいのか分からない。
連れていかれたのは寝室で、男一人なのにクイーンサイズのベッドが設置されていて、胃のあたりがギュッと痛む。
丁寧にベッドの淵に降ろされた。
中林さんは着ていた上着とシャツを脱ぎ捨てる。
そこには幼いころの記憶と同じ中林さんの体があって、昔と同じ気持ちで見れない自分に罪悪感を感じる。
俺と同じ様にベッドの淵に座る中林さんの背中には牡丹と夜叉昔と同じ彫り物がしてある。
小さい頃、まだ刺青の意味なんて何も考えなくてよかった頃、これを見るのが本当に好きだった。
中林さんの背中にそっと触れる。
それから思わず中林さんの背中に口付けをした。
ずっと悟られない様に気を使って暮らしていた反動が出てしまったようだった。
中林さんは静かに口を開いた。
「大河は俺を試しているのか?」
思いもよらない言葉に思わず「試されるのは俺じゃないんですか?」と答えてしまった。
振り向いて眉根を寄せる中林さんにしまったと思う。
だけど、それ以上何もいう事もできずそのままベッドに押し倒された。
「今のはどういう意味だ。」
「だって、選択権があるのは中林さんだと思います。」
自分がこの人を好きなのはずっと変わらないけれど、一緒に暮らす事もこれからの事も決定権は俺にはもう何も無いこと位知っていた。
怒られるだろうか。
不安な気持ちのまま中林さんを見上げた。
天井をバックにしてみた中林さんの顔は切な気に歪んでいて、今自分の口から出してしまった言葉を早くも後悔する。
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