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中林さんは何も言わないまま、俺にキスをした。
そのまま覆いかぶさって、舌が口の中に入ってくる。
息もできない位口内を舐められる。
触れている体でお互いが興奮しているのだという事実に気が付いてギクリとする。
自分が性的な目で見られているという証が太ももにこすりつけられ、思わず震えた。
「若は……、大河さんは分かっていない。
俺が、まるで馬鹿丸出しだった十代の頃みたいに興奮してどうしようも無くなってるんですよ。
ずっとずっと、大河だけが欲しかった。」
心臓がバクバクと音を立ててうるさい。
「俺だってずっと、ずっと、中林さんの事好きでした。
自分が跡目に選ばれれば、一生一緒にいることができるんじゃないかって何度考えたかわかりません。
……俺には能力もないし向いていないことは明白だったので、何度も諦めようって、そう思ってきました。」
いつか中林さんは結婚するだろうし、その時までってずっと、半ば自棄になりながらずっと貴方だけを見ていました。
笑い話にもならない話だ。
「今だって、ここに今まで沢山の人が来たんだと嫉妬してるんですよ。」
子供だとしか思えない事を言っている自覚はあった。
「この部屋に誰かを呼んだことは無い。」
はっきりと言われる。
愛人の話だって聞かなかっただろう。中林さんに溜息をつかれながら言われて思わず息を飲む。
「俺だけってことですか。俺が中林さんの一番?」
そうだから俺の物にしたんだ。さっきからそう言ってるだろう。
自嘲気味に中林さんが言う。
「嬉しいです。」
いつの間にか涙声になっていた。
* * *
「泣き虫なところは昔から変わらないな。」
キスの合間にそう言われる。
中林さんの目は見たこと無い位情欲に濡れていて、だけど昔肩車をしてくれた時みたいに優しかった。
それから、服を脱がされる。既に反応しているものを見られることは羞恥なんて生易しい気持ちじゃない位恥ずかしい。
浅ましいと思われるのが怖かった。
何か言い訳をしようと思うのに上手く言葉が紡げない。
はくはくと池の鯉みたいに口を開け閉めしているとおもむろにすでに勃起していた陰茎を握られる。
グチュグチュと音がするのが恥ずかしいのに、初めて人に触れられる快感に思わず中林さんに縋りつく。
中林さんがハッと短く息を吐いた。
俺の起立をこすりながら中林さんは後ろも器用に解していく。
違和感しか感じないけれど、中林さんが俺と繋がることを前提にこの行為をしてくれていることが嬉しかった。
でも、段々と中林さんの手で高められていることしか考えられなくなる。
声と吐息の中間の様な「ふう、ふう。」という声だけが響いている。
「もう、イクからっ!」
離してくださいと言うつもりだったのに、突然強くこすられて我慢できず中林さんの手に出してしまう。
はあはあという荒い息遣いで見上げた中林さんは大人の男の顔をしていた。
「大河、もう、いいか?」
何がかは言われなかったけれど、何をこれからするのかはもうそこまで子供じゃないからわかる。
足を高くあげさせられ担がれるようになっている。
足先は中林さんの肩に当たりそうだった。
女みたいなって言ったらきっと中林さんはまた怒るかもしれない。
中林さんの物になるための体制で、中林さんの怒張をローションでグチャグチャになったそこにあてがわれる。
あり得ないと思っていた。この人の瞳にそういう対象として映ることは無理だと思っていた。
だけど、今彼は自分の事しか見ていない。
「中林さん、おれ、うれしい。」
俺がそう言うと、圧倒的質量が一気に入って来て息をつめる。
「大河は俺を試しているのか?」
先程も聞かれた言葉に、体がいっぱいいっぱいに拓かれていて余裕は無かったけれど、それでも笑顔を浮かべた。
「俺が中林さんを試すなんてあり得ないから、我慢しないで愛してくれると嬉しいよ。」
中林さんは吼えた。正しくは吼えた気がしたなのだけれど、彼は低く吼えると俺の腰を掴むと、そのまま何度も中林さんの腰を打ち付けた。
ただ、声にならない悲鳴を上げることしかできなくて、それでも幸せで、涙が溢れて止まらない位幸せだった。
* * *
疲れ果てて行為後すぐに寝てしまったことは覚えていた。
起きて最初に目に入ったのが中林さんの首で、腕枕をされていることにようやく気が付いて、先程の行為を思い出して余韻にひたる。
「大河、起きたのか。」
中林さんに言われ、ああ、俺の為にここに付いていてくれたのかと気が付く。
中林さんの首の後ろへ手を回して、ぎゅっと抱き着く。
「おはようございます。」
かすれてしまった声で言うと、殊更優し気な声で「もう、ベッドから出たくないな。」と中林さんが笑った。
了
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