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「貴様、偽ブランドをつかませやがったな!」
男は隅田の剣幕にたじろいだが、「何のことかな」と白を切る。
「しらばっくれるな! 俺には全ての物の価値がわかるんだぞ!」
隅田のそんな言葉に、男は鼻で笑って居直り始めた。
「へっ。何が『物の価値がわかる』だよ。あれだけ精巧に作られたうちの商品を偽だと見抜いたのは誉めてやるが、あっさり騙されてのこのこ買い占めていったのはどこのどいつですかって話。騙されたあんたが悪いんだよ」
隅田はカッと頭に血が昇り、男の胸ぐらを掴んだ。
その乱暴行為に、男は舌打ちをして隅田を挑発した。
「あんた、元々はしがないサラリーマンだったらしいじゃないか。そんじょそこらの成り上がり風情が、高級ブランドに釣り合う価値なんかないんだよ。そんなんでブランド品を転がすつもりだったのかよ。聞いて呆れるぜ。俺ぐらいの高級感がないと、ブランド物もうまく扱えないんだぜ」
数々の侮辱の言葉に、隅田はいよいよ堪忍袋の緒が切れた。
「黙れ、この偽物野郎が! 貴様の価値がどんなもんだってんだよ!」
隅田は男の頬を殴った。
男は、倒れるか怯むかすると思われた。
──が、そうはならなかった。
男の姿が、目の前でパッと消えたからだ。
(──……あれ……?)
驚愕に目を見開く隅田の眼下に──男の姿に取って代わるように、数枚の一万円札がひらひらと落ちていた。
(まさか……)
隅田は、自分の手をじっと見つめた。
男を殴る瞬間に、叫んだ言葉を思い出した。
──貴様の価値がどんなもんだってんだよ──
価値──つまり、金のことを考えながら、隅田は男を殴った。
金のことを考えながら、対象物に触ったのだ。
(もしかして──……)
一つの考えに行き着き、隅田はにやりと笑った。
「ふ……ふふふふふふ」
笑いが止まらなかった。
この力は、人間にも効果を発揮する──!
それを知った後の隅田の暴走は、もう止まることを知らなかった。
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