第1話 隅田、老婆と酔っぱらいに会う。

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第1話 隅田、老婆と酔っぱらいに会う。

 あるところに、(すみ)()という名の男がいた。  平日の夜、隅田は仕事帰りに公園を突っ切って歩いていた。  すると、近くにある噴水にゆるりと歩み寄る一人の老婆が視界に入った。  みすぼらしい出で立ちのその老婆は、噴水の中を覗き込んだかと思うと、顔を突っ込んで水をガブガブと飲み始めたのだ。  びっくりした隅田は、思わず老婆に声を掛けた。 「ちょっ、何やってんですか?」  老婆は水から顔を上げると、隅田を見て淡々と言った。 「喉が渇いてるんだ。公園の水を飲んでも罰は当たらないだろう」  隅田は呆れ、困惑した。 「いや、でも噴水だし……」 「放っておいてくれ」  構わず噴水に顔を突っ込もうとする老婆を、隅田はもう一度止めた。 「まぁまぁ、そんなに喉が渇いてるんなら……そうだなぁ、自販機で何か買ってあげるよ」  隅田は親切心を引き起こし、近くの自動販売機で老婆に冷たい飲み物を買ってやることにした。 「何がいい? お茶とか?」 「ぶどうジュースを」 「ぶ……。意外なモン頼むなぁ」  自動販売機の中から、隅田は老婆の所望する100%果汁のぶどうジュースを買ってやった。
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