第3話 隅田、触りまくる。

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 いろいろやってみて判ったことだが、この不思議な力は、触る物全てを必ずしも金に変えるわけではなかった。  金を所望するように念じながら触れた時にだけ金に変わるという、非常に都合の良い仕組みになっていた。  すなわち、金に変えたくない必需品や日用品が金に溶けてしまったり、食べ物が金に変わって食べられなくなってしまうなどという不便は一切なかったのだ。  かくして、働かずして一月(ひとつき)は生活できる金額を手に入れた隅田であったが、家にある不用品にも限界がある。  いよいよ自分の家に不用品がなくなると、隅田は他人の所有物にまで文字通り手を伸ばし始めた。  始めは知人に不用品の回収をしてやるという話を持ち掛け、体のいいリサイクル回収サービスの様相を呈していた。  それだけでも生活するには充分かと思われたが、人間の欲という物は(とど)まることを知らない。  バッグ、宝石、アクセサリー、車……。  隅田は、知人の持つ高価そうな所有物まで、こっそり金に変えるようになったのだ。  知人だけならいざ知らず、見ず知らずの他人の物にまで手を付け始めたのである。  もはや窃盗・泥棒・盗人の所業である。  他人に物を金に変える場面を見られたり怪しまれたりする下手は打たないように、隅田は迅速かつ密やかな動作で次々と他人の物を盗んでいった。  その腕前は、もはやプロ級だった。  盗品を次々と金に変えていくことでそれが積もり積もっていき、それを元手に株デイトレードに着手、ついに隅田は億単位の資産を所有するまでになったのだった。  しがないサラリーマンだった自分がと思うと、隅田は笑いが止まらなかった。  この素晴らしい力を他人に悟られ面倒が起きないように、隅田は必死で力を隠し通しながら、何事もなく平穏に力と共存していこうと心に決めた。
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