第3話 隅田、触りまくる。

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第3話 隅田、触りまくる。

 それから隅田は仕事をサボり、自分の家にある不要な物に触っては次々と金に変えていった。  ハンガー代わりにしているダイエット器具。  ちっとも面白くなかった映画DVD。  1ページで読む気の失せたベストセラー恋愛小説。  福袋に入っていたセンスの悪いピーコート。  結婚式の引き出物でもらった悪趣味な柄のお皿セット。  時代を感じる流行り物などなど……。  ほぼ新品同様で保存状態も良かったためか、定価に近い額のお金に変えることが出来た。  中古業者を介さない分、物そのものの金額が手に入るのは、何よりもお得だと感じた。  そんなこんなで、家にある不用品を金に変えた総額は、月収程の額になった。  隅田はしめしめと笑いながら、同時に働くことの馬鹿らしさを覚えた。  そして職場からは足が遠のき、ゆくゆくは退職してしまったのである。  あの酔いどれ青年が何者で、どんな世界の人間なのかは知らない。  だが、隅田は彼に感謝した。  あんなみすぼらしい老婆だろうが何だろうが、気紛れに人助けはしてみるものだと、自分の行動を讃えた。
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