L第2話 side N

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「だって、初対面じゃない男の人でしょ。何か、帰りたくない」 ……男に『帰りたくない』って言ってはいけません。初対面かどうか関係なく。これ、言うべきか。 ……えー……っと? 谷川が前のめりで続けた。 「ね、お酒、付き合って!」 酒か。 酒の話か。『思いっきり飲む』方の話か。 いつの間にすり変わって…… まぁ、いいか。俺もまだ……そんな気分だ。 「おお、行くか」 俺がそう言うと、にこっと笑って、体の方向を変え、もう一度腕を絡めてくる。 「やった! 限界に挑戦! ほら、さっき可愛こぶってたから、まだお腹もすいてて……中野くんの家の近くのスーパーまだ開いてる?」 は? 俺の家? いや、その前に限界に挑戦つったか? 「どうしたの?」 「どこで、飲む気なんだ?」 「……中野くんち。あれ? 私の家でもいいよ」 ……こいつ…… 「あのなぁ、お前」 「だってさぁ、限界に挑戦でしょ? 私、キレるかもしれないし、泣くかもしれないし、寝るかもしれないよ? いいの?」 いいの? じゃ、ねぇ。 もっと『いいの?』ってとこがあんだろ。 ま、寝られたら厄介か。どのみち、何もする気はない。 いっか、もう。 「ん、行くか」 てか、既に十分過ぎる程酔ってんじゃねぇのか?ずっと組んだままの腕に、そうは思ったけど 酔っぱらい相手に正論かますのも面倒くさい。明日は休みだ、こんな日もいいか。 ……後から考えたら、ここで帰らせたら良かった。
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