R第2話 side D

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その時、佳子さんの手からストンと杖が滑り落ちた。 「お、大丈夫ですか? ほら」 そう言って差し出した俺の腕に抵抗なく掴まる。 佳子さんより先に、誰かの手が杖を拾う。 「あ、ありがとうございます。お帰りなさい」 「いえ」 しばらく、時が止まったかのように、二人が目を合わせる。 そのまま先に結城さんは営業部へ戻って行った。 俺達を抜かして。 「大丈夫ですか? ……まあ、断固年上派って事ですよね、さっきの話だと」 もう一度、確認する。 「……断固っていうか……その方が落ち着くって事。心が、狭いのよ。とりあえず、続きはまたアルコール入った時にでも」 「うわ、それ、年末まで待つやつじゃないですか」 「あはは! 自分だって、それまでに誘う気ないんじゃーん」 そう言われて、気づく。 だって、『予約』入ってるって…… だけど…… 「……誘ったらデート、してくれるんですか? 佳子さん」 「……。昨今の若者は、どこでデートするんだね?」 「ぶ! じいさんかよ」 面白い返しだけど。 ……流すんだな。 いや、受け取ってもない、か。 「……せめて、ばあさんって言ってくれない?」 「…引っかかんの、そこ? まぁ、いいや。これ…ー、企画(あっち)で擦り合わせてきます。それで、終了かな」 「おおおお、若者は仕事が早いのぅ。では」 「佳子ばあさん……」 断固、年上派かぁ。 で、俺はそこからずーっと『断固年上』が頭の中をぐるぐるしてたわけ。
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