R第25話 side Y

2/6
前へ
/327ページ
次へ
「ねぇ、香澄もさぁ、中野くん……」 そう言いかけた私を、香淳が遮った。 「あのねぇ、自分が幸せだからってねぇ!」 少し頬を膨らませてそう言われ、続きの言葉は言わない事にした。 「堂本くんは、いいなぁ。優しくて、分かりやすい。不安なんてないでしょ?」 「うーん……誰にでも優しい……からさ。分かりやすい優しさは……勘違いさせそうだよね」 「……そうか、彼氏になっちゃうと複雑か。ね、まだ悩んでるんだけどね、私……この会社辞めるかも」 会話の流れから、急に退社の話に変わり、しばらく言葉が出なかった。 「……えぇ!?」 「……まだ、誰にも言ってない。百合にだけは言っておこうかと思って。彼氏の……転勤ついていくかも」 「彼氏? 別れたんじゃ……」 「うん、別れてる。でも、連れていきたいって」 「香澄は?」 「いなくなるって思ったら、寂しくなって……だけど……一番の理由は、それじゃない。だから、悩んでるんだよね」 ……一番の理由、それって…… 「ねぇ、るーちゃん、宮さんと上手く行ったんだからさぁ! 香澄も、ちゃんと……」 最初に言いかけた言葉をもう一度、香淳に言おうとした。 「中野くんは、私とどうにか、ならないよ」 それを察して香淳はそう言った。その瞳に、迷いの色が浮かぶ。 「だけど、それならそれで……ちゃんと区切りを……」 「そのつもり」 香澄は笑ってそう言った。 「そのつもり。彼に付いて行くって決めたら、もう振り返らない。その為には……ちゃんとしないとね」 もう一度、そう言った。 ……それ以上はお互い、その話はしなかった。だけど、どのみち、今のままではいられない。 ……香澄がいなくなるのは、嫌だな。 だけど……ここが会社である限り、そんな理由で引き留められない。 決めるのは、香澄だ。
/327ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3784人が本棚に入れています
本棚に追加