エピローグ

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「はは!」 彼は少し重なった歯を見せて笑った。 「もう、1回」 人差し指を立ててそう言った彼に、ぶんぶんと音がしそうなくらい、首を振った。 物凄く残念そうな彼の顔に、肺の中に入ってる空気を全部息を吐き出した。 もう一度、息を吸って…… 彼が手の平をこっちに向けて、言った。 「待って、言って欲しいセリフがある。こう言ってくれない? ちゃんと聞きたいから」 勿体ぶって、彼は正座する。 「俺に続けて。“百合は、尊が好き”はい、どうぞ」 そう言って、どうぞとばかりに指先を揃えた手をこちらに向けた。 …… 「……百合は……って、無理! 何それ!? 何言わす気!?」 「いや、あの一人称“百合”可愛いと思ってたんだよね」 「あのねぇ、無理無理無理」 思いっきり手を横に振った。 「俺は、何回でも言えるけどね。百合百合百合百合好き好き好き好き!」 そう言って、私を抱き締める。ああ、そうでしょうとも。 この人のこんな所を私もいいなぁって……思ったんだったな。 「はぁ、安っぽ」 「……。百合にしか、言わない。好きだって」 「……百合も、尊が好きだよ」 驚いて見開かれた目が、柔らかく細められる。彼の腕に力がこもり、感情を隠すことなく嬉しそうに笑った。 きっとこれからも、無自覚に私を翻弄させてくれるのだろうけど きっとこれからも、彼はその場で向き合ってくれるのだろうな。 曖昧にすることも、誤魔化すこともなく、真っ直ぐに。 ……だから、私もたまには見習おうと思う。 そんな尊が好きだから。 ────End
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