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その時、佳子さんの手からストンと杖が滑り落ちた。
「お、大丈夫ですか? ほら」
そう言って差し出した俺の腕に抵抗なく掴まる。
佳子さんより先に、誰かの手が杖を拾う。
「あ、ありがとうございます。お帰りなさい」
「いえ」
しばらく、時が止まったかのように、二人が目を合わせる。
そのまま先に結城さんは営業部へ戻って行った。
俺達を抜かして。
「大丈夫ですか? ……まあ、断固年上派って事ですよね、さっきの話だと」
もう一度、確認する。
「……断固っていうか……その方が落ち着くって事。心が、狭いのよ。とりあえず、続きはまたアルコール入った時にでも」
「うわ、それ、年末まで待つやつじゃないですか」
「あはは! 自分だって、それまでに誘う気ないんじゃーん」
そう言われて、気づく。
だって、『予約』入ってるって……
だけど……
「……誘ったらデート、してくれるんですか? 佳子さん」
「……。昨今の若者は、どこでデートするんだね?」
「ぶ! じいさんかよ」
面白い返しだけど。
……流すんだな。
いや、受け取ってもない、か。
「……せめて、ばあさんって言ってくれない?」
「…引っかかんの、そこ? まぁ、いいや。これ…ー、企画で擦り合わせてきます。それで、終了かな」
「おおおお、若者は仕事が早いのぅ。では」
「佳子ばあさん……」
断固、年上派かぁ。
で、俺はそこからずーっと『断固年上』が頭の中をぐるぐるしてたわけ。
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