46人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
考えたくはないけれど、内定の妨げになる足枷といえば、倫音自身の出自以外に思い当たらなかった。
水商売に従事している母の元で、私生児として生まれた子。
身辺調査をすれば、このくらいの情報は容易く手に入るだろう。
色眼鏡で見られることを避けるために地元を離れて就学し、就職も決めるつもりだった。
けれど…
「世の中、理不尽なことだらけよ」
倫音の気持ちを代弁するように珠輝はつぶやいた。
決して若くはない母に、ホステス業から足を洗わせたい。
そのためにはと、できるだけ給金の良い企業に狙いを定めてきたけれど。
受け入れてもらえず働けないのなら、仕送りどころか、自身の生活すら危うい。
「うちは上場じゃないけど。天崎さんなら、店長…ううん、幹部になれる人材だと思うわよ」
業務用のセイロに豚まんを放り込みながら放った珠輝の魅力的な一言に、倫音の心は揺らいだ。
最初のコメントを投稿しよう!