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ふと、ある場面を鮮明に思い出す。
『探偵に! 俺は、なる!』
故郷を出る直前に夢を語ってくれた彼は、叶えることができたのだろうか。
身内でも友人でもなく、アルバイト先で僅かの時間を共に過ごしただけの彼に、何の思い入れもなかったのだけれど。
なぜか節目に、あの日2人で交わした会話が脳裏に蘇るのだ。
『離れる人間は、倫音ちゃんにとって、必要な人物じゃないんだよ』
必死に擦り寄って、振るい落とされるよりも。
必要としてくれる場所で、働けばいいんじゃない。
もしも今、彼が目の前に現れたなら。
そんな風にアドバイスしてくれるだろうか。
「あり得ない」
「何が?」
とうとう心の声が口をついて出た倫音に、珠輝は律儀に反応する。
「いえ…独り言が多くて、すみません」
連絡先も知らずに離れ、3年が経過したのだ。
互いの名前を知る以外に、何の縁もない2人が偶然出会う奇跡など、あるはずがない。
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