46人が本棚に入れています
本棚に追加
早番の紗奈を帰した後、精算業務の手を休めないまま、珠輝がポツリとつぶやいた。
「紗奈ちゃんと、何かあった?」
ショーケースの四隅に合わせ、手にした白い布を手際よく、かつ丁寧に覆っていた倫音だが、一瞬動きを止める。
「午後から、ほとんど会話してなかったでしょう?」
ドライブに誘われた件を黙っておくようにと塩谷に釘を刺された紗奈は、珠輝が休憩を終えて戻ってきた直後から、あからさまに口をつぐんで雑務に没頭し始め、倫音とも一切の会話を交わさなかったのだ。
うっかり漏らしてしまわないよう、気をつけてたつもりだったのだろう。
「昨日今日と、2人でいる時間が長かったので…お互いに話すネタが切れてしまったんです」
「そういうことね。確かに、今週末は、2人に頑張ってもらったわ。ありがとう」
書き終えた日報を閉じると、それ以上深入りすることなく「帰りましょう」と、珠輝は立ち上がった 。
「あの、店長…」
あっさりと疑念を拭われたことに対する罪悪感から、倫音が思わず声を掛けたその時。
RRRRRRR……
遮るように、珠輝の携帯電話が着信を鳴らした。
最初のコメントを投稿しよう!