3.よこしまな真実

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------------------------ 宵の口といえど、いびつな丸い形をした白い月が、頭上に高く上り始めている。 タイムカードを兼ねたIDを通し、天神屋デパート従業員出入口を後にした倫音は、足早に帰路を辿った。 人通りの少ない路地に入ったところで、唐突に背後からハイビームのライトに照らされた。 見慣れない漆黒のミニバンが、回り込む形で、歩みを止めた倫音の傍らに駐車する。 「今、バイトの帰り?」 運転席から姿を現したのは、『かや乃寿司』店長である佐田英治だった。 「遅くまで、お疲れ様。 良かった、ちょうど通りがかって。家まで送っていくよ、乗って!」 流れるような誘い文句は、昼間の塩谷と同様だ。 やはりあれは、佐田からのレクチャーだったのだと、倫音は改めて確信する。 「大丈夫です。店休日まで、お楽しみは取っておきます」 ドライブの件も、当日に適当な理由をつけて断るつもりでいたのだが。 この場を凌ぐため、とっさに出任せが口をついて出た。 「それとこれとは、別だよ」 まるで紗奈の受け売りのような口ぶりで、佐田は一歩も引かない。 それどころか、車中に無理矢理押し込めるべく、倫音の肩に手をかけてきた。 「夜道に女の子の独り歩きは危険だから!」 いや、あなたと車中に2人きりでいることの方が、危険度倍増! と切り替えす変わりに、着信が入ったふりをして携帯電話をバッグから取り出そうとしたその時。 「倫音ちゃん!」 悪事を暴くフラッシュのように、大きな目玉ライトが佐田を背後から炙り出す。 フルフェイスのヘルメットで顔は見えなくとも、呼び声で分かる。 佐田を照らすバイクにまたがっていたのは、タカシだった。
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