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例えようのない不快感に耐えながら一頻り歩いた後、ふとバッグの中を覗いて見る。
川辺のホタルのように携帯電話が小さな明かりを灯し、着信を知らせていた。
手に取り、送り主を確認する。
「母さん…」
『電話はしないよ。嫌いだから』
そう言って、離れていた3年の間、本当に一度も自分から電話をかけることのなかった母からの着信だった。
マナーモードで気づかなかったことに悔やみつつ、すぐに折り返しをかけるも、繋がらない。
長いコール音に胸騒ぎを感じつつ通話を閉じる。
間髪入れず、再び『母』の表示と共に着信が灯った。
「もしもし、母さん?」
「天崎倫音さんですか?」
しばしの沈黙の後に、低く落ち着いた聞きなれない男の声で、答えが返ってきた。
「あなたのお母様…天崎静さんが、お亡くなりになりました」
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