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「すごいわね、天崎さん」
倫音の対応に、羨望の眼差しを向けて紗奈は称賛した。
「目で見ただけで、食べたグラム数が分かるなんて」
首を傾げながら、倫音は答えた。
「あぁ…適当に言ったまでです」
「て、適当!?」
「ええ。私、計量器じゃありませんから…あ、豚まんのストックを補充してきます」
バックヤードへと引っ込んだ倫音と入れ替わりに、オールバックヘアを手櫛で撫で付けながら、いぶし銀の宝塚男役と見紛うような女性が現れた。
「留守番ありがとうね、紗奈ちゃん。ん? どうしたの?」
休憩を終えた、店長の丸川珠輝だ。
相変わらずマダム・ヨーの制服が最も似合いませんよ、と口から漏れそうになるのを紗奈は堪えた。
珠輝自身は意外に制服を気に入っているらしく、鏡代わりにしたショーケースのガラス前で、レッドバトラーばりなヘアスタイルの上に鼻歌混じりでカチューシャを乗せていた。
「天崎さんって、すごいですよね。仕事は早いし、判断力はあるし…」
ミスマッチな珠輝の容姿とフリルの制服から気持ちを反らすように、紗奈はつぶやいた。
「確かに物覚えはピカ一だし、若い割りに肝が座ってるところはあるわね」
でも…と悩めるバトラーよろしく、眉間にシワを寄せ、顎に拳をのせながら珠輝は断言した。
「あの潔癖さは、処女ね」
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