貴方を求める

3/17
前へ
/180ページ
次へ
 家まで送ってもらう帰り道、真人はずっと黙ってた。もうすっかり夜になっていて、家に辿り着いた時には冷たい風が吹いてた。  「実家に車戻すから」 ハンドルに手を掛けたまま、こちらを向く。一瞬伸ばしかけた左手が、私にふれることなく下ろされた。 「荷物は…… 後でいい?」 私の家には真人の私物が幾つもある。 「連絡する」 「ん……」  はあ――って。真人からおっきな溜め息が吐き出される。私に笑い掛けるみたいにして真人の声が高くなる。 「次会った時、そんな表情してるなよ」 「え……?」 「泣いてたら、だめだってこと」 ふっと見せたその瞳は優しい。うん―― だけど私には頷くことくらいしかできなかった。  さよなら、真人。去り行く車を見送った。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

902人が本棚に入れています
本棚に追加