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家まで送ってもらう帰り道、真人はずっと黙ってた。もうすっかり夜になっていて、家に辿り着いた時には冷たい風が吹いてた。
「実家に車戻すから」
ハンドルに手を掛けたまま、こちらを向く。一瞬伸ばしかけた左手が、私にふれることなく下ろされた。
「荷物は…… 後でいい?」
私の家には真人の私物が幾つもある。
「連絡する」
「ん……」
はあ――って。真人からおっきな溜め息が吐き出される。私に笑い掛けるみたいにして真人の声が高くなる。
「次会った時、そんな表情してるなよ」
「え……?」
「泣いてたら、だめだってこと」
ふっと見せたその瞳は優しい。うん―― だけど私には頷くことくらいしかできなかった。
さよなら、真人。去り行く車を見送った。
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