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奪われる
【side_流生】
長い髪が目の前で揺れた。
「あ、ごめんなさい」
混雑する電車の中、肩がぶつかり合う。軽く頷くと彼女は窓の外、流れ行く景色を眺めていた。
ガタンッ―― 大きな揺れに彼女がよろめく。掴まるところが見つからない腕を、咄嗟に支えてしまう。
「すみません……っ」
顔を赤らめた彼女が印象に残った。
さっきの彼女だ。同じ会社に入社して来た彼女を見つけた。素直そうな笑顔に好感を持つ。
目は追い続けた。だけど目だけ。俺には彼女を、愛里を誘う時間は無い。
「流生――っ!」
吹き出すシャンパン。鼻をつく香水の香り。今宵もまた姫達のナイトが始まる。
倶楽部【JEWEL】に、突然君が現れた。昼間の顔を知る愛里は困惑していた。
遠恋中…… 彼氏がいるんだ。一瞬よぎるざわつき。
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