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鬼退治というのはなかなかの名案だと思ったが、桃じいはうんとは言わなかった。
「桃一早まるな。いくらお前が桃に選ばれし者とはいえ、時代は変わったんだ」
「桃じいがそれ言う? あと、俺知ってるから。俺、本当は桃から生まれたんじゃなくて、じいさんとばあさんが桃を食って若返って――」
「不届き者めっ、成敗されたいか!」
桃じいは急に別人のような太い声になったが、ハッと元に戻ってつけ加えた。
「頼むから皆まで言うな。ばあさんが月に帰ってしまう!」
もう一人の家族、佳夜ばあはニコニコするのみだった。怪しい桃を食べたためか、元来そういう血筋なのか、白髪、むしろ銀髪の彼女は年齢不詳の美しさを有している。桃じいは彼女は月から来たのだと言ってはばからなかった。
「桃じいに質問。桃じいは自分で稼ぎがいいと思う?」
「いや」
「じゃあ、俺がよそで奉公できると思う?」
「……いや」
「なら行っていいよね?」
桃一はなんやかんやで桃じいを言いくるめると、その辺にあった 鉞 と、佳夜ばあが急ごしらえしたきび団子を持って出発した。
もちろん、長い髪にくしを入れ直し、鏡を角度を変えて何回も確認してからのことだ。
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