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実に素晴らしい天気。鬼退治日和だ。
脇街道のもう一つ脇道に当たる、手抜き工事感のある一本道を、桃一は鼻歌を歌いながら歩いた。道の真ん中にちょいちょい立派な雑草が生えているのが、人通りの少なさを物語っている。
「おや? 貴方様はもしや、桃太郎様?」
突然の声に桃一が周囲を見回したところ、道端に毛艶のいい白い犬がいるのを見つけた。
「その二世の桃一。ひょっとして、お前が桃じいのお供だった犬?」
「その三世です」
「俺ら何で会話できんの? 喋る犬って流行りなの?」
「桃太郎様には代々動物と会話できる能力があるのです」
「代々って、まだ二代目だし。つか、その設定金太郎ぽくない?」
「じゃあ、その鉞の力で」
「適当か。あ、これいる?」
きび団子の存在を思い出し、由緒正しくそれで勧誘しようとしたが、三世はそっぽを向いた。
「今時きび団子も珍しくないですしね」
「俺もそう思うわ。それより、今日の俺の服どうよ?」
この袴は新作のカルサン袴(※)で流行の苔色だとか、この根付は上方の人気店のものだとか、桃一が解説をしながら隅々まで衣装を見せる。ところが、なぜか犬は終始無言だった。
「あれ? どうした?」
「……ワン」
「鉞の効果が切れたのか?」
「ワンワン」
腑に落ちない。とにかく、桃一は白い犬と別れて先へ進んだ。
そんな調子で猿と雉にも遭遇した桃一だったが、結局みんなきび団子になびかなかったので、一人で鬼ヶ島に行くことになった。でも、ちゃっかりきび団子を食べた雉三世が、鬼ヶ島の詳しい位置を教えてくれたので何の問題もない。
途中の村で一泊して、翌朝、桃一は海辺に出た。この日も晴天、鬼退治日和は継続だ。沖に浮かぶ鬼ヶ島と思しき島を望みつつ、桃一は余ったきび団子を頬張った。
お、これ筍入ってる。
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