3/3
前へ
/13ページ
次へ
 ***  実に素晴らしい天気。鬼退治日和だ。  脇街道のもう一つ脇道に当たる、手抜き工事感のある一本道を、桃一は鼻歌を歌いながら歩いた。道の真ん中にちょいちょい立派な雑草が生えているのが、人通りの少なさを物語っている。 「おや? 貴方様はもしや、桃太郎様?」  突然の声に桃一が周囲を見回したところ、道端に毛艶のいい白い犬がいるのを見つけた。 「その二世の桃一。ひょっとして、お前が桃じいのお供だった犬?」 「その三世です」 「俺ら何で会話できんの? 喋る犬って流行りなの?」 「桃太郎様には代々動物と会話できる能力があるのです」 「代々って、まだ二代目だし。つか、その設定金太郎ぽくない?」 「じゃあ、その鉞の力で」 「適当か。あ、これいる?」  きび団子の存在を思い出し、由緒正しくそれで勧誘しようとしたが、三世はそっぽを向いた。 「今時きび団子も珍しくないですしね」 「俺もそう思うわ。それより、今日の俺の服どうよ?」  この(はかま)は新作のカルサン袴(※)で流行の苔色(こけいろ)だとか、この根付は上方(かみがた)の人気店のものだとか、桃一が解説をしながら隅々まで衣装を見せる。ところが、なぜか犬は終始無言だった。 「あれ? どうした?」 「……ワン」 「鉞の効果が切れたのか?」 「ワンワン」  腑に落ちない。とにかく、桃一は白い犬と別れて先へ進んだ。  そんな調子で猿と雉にも遭遇した桃一だったが、結局みんなきび団子になびかなかったので、一人で鬼ヶ島に行くことになった。でも、ちゃっかりきび団子を食べた雉三世が、鬼ヶ島の詳しい位置を教えてくれたので何の問題もない。  途中の村で一泊して、翌朝、桃一は海辺に出た。この日も晴天、鬼退治日和は継続だ。沖に浮かぶ鬼ヶ島と思しき島を望みつつ、桃一は余ったきび団子を頬張った。  お、これ筍入ってる。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加