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声と共に登場したのは、子供体形の小柄な鬼だった。赤鬼、いや桃色の鬼で、たぶん男の子。茶色っぽい縮れ毛は綿のようにフワフワしていて、毛に埋もれるように短い角が二本生えていた。黒い上衣、股引に似た膝丈の服は例によって虎柄だ。
小鬼は桃一に寄ってくると、頬っぺたにえくぼを作って笑いかけた。
「さすが桃太郎さん、お侍だけあって強いでし」
「……一つ、人違いだから。俺は桃一だ。二つ、武器違いだから。侍は鉞なんかで戦わないだろ?」
「そうでしたか。では桃一さん。これ以上は勘弁してほしいでし。もう昔みたいに悪いことはしてないでし」
「知るか」
「こんな愛くるしいオイラが言ってるのにでし?」
「稚児趣味はない」
「越後? 桃一さん上方派ってことでしか? オイラでダメなら、双子の可愛い妹もいるでし」
何かムカついたので、桃一は小鬼のフワフワ頭を引っ張った。
「アイタタタ、何か分からないけどゴメンでし! あと、越後が趣味じゃないなんて言ったら、桃太郎のお侍さんに怒られるでしよ?」
「お正月か、って突っ込みはしないからな」
痛い痛いと言いながら、小鬼はチラチラと上目遣いを送ってくる。桃一はだんだんアホらしくなってきて、引っ張るのをやめた。
「あんまりガキをいじめんのも格好悪いか。お前、名前は?」
「オイラは鬼太でし」
「そこは太郎でいいだろ、鬼太ろ……あ、これダメなやつだ」
一人で納得して、桃一は改めて鬼太に言った。
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