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「汚ねぇ犬。雑巾みたい」  黄色い丸い帽子を被った男の子が、水たまりを傘でえぐるようにして僕の顔面に弾く。  咄嗟に避けようとしたが、空腹のあまり足元がぐらついて、地面に踏ん張るだけで精一杯だった。 見るからに良くなさそうな、どろっとした虹色の水をまともに正面から受け、みすぼらしさに拍車がかかる。 僕におもいきり雨水をお見舞いした子供は、よろよろと立ち上がった僕が噛みつきでもすると思ったのか、空き地を飛び出して一目散に逃げて行った。 小石や砂がぼそぼその毛に絡まる。 元はクリーム色でふかふかの自慢の毛だったのに、今ではあの子の言う通り雑巾だ。 それも捨てる寸前のボロ雑巾。 やせ細り、体の大きさも二回りくらい小さくなっているだろう。 だらりと地面に垂れた尻尾のボリュームは半分以下になり、汚らしいどぶ色をしていた。 ゴミ漁りすら気力を失くし、ただこうして時間を貪るだけの野良犬の僕は、濃淡のはっきりとした分厚い灰色の空を見上げた。
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