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八月のよく晴れた朝、スマさんは布団から出てこなかった。
風邪だろうか。
人間はこうして度々具合が悪くなるのを、綾ちゃんと暮らしていて知った。
薬を飲んだら良くなるけれど、それでも弱っている姿を見るのは不安でしかない。
「なに犬が辛気臭い顔してんのさ。私は勝負に負ける気は無いよ。こんな風邪くらいでどうこうなるもんか。今日は散歩行けないから、家の前で外の空気でも吸っておいで」
スマさんに追い払われた僕は仕方なく家を出た。
日向はじりじりと蜃気楼が揺れるほど暑いけれど、玄関前の日陰は地面がひんやりしていて気持ちが良い。
おまけに床下の通気口のあるここは、夏の間は冷気を感じる。
家の前を行き交う人たちが、時々僕の方を見て通り過ぎていく。
シャンシャン、ジーッと騒ぐ蝉たちと、スマさんがベランダに吊るしている風鈴の優しい音色が重なる。
眩しいくらいの白を放ちながら、むっちりと沸き立つ入道雲が盛夏を演出していた。
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