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八月に入ってから際限なく暑さが増している。
部屋の真ん中では扇風機が右へ左へと首を振る。
僕はその前に座って真正面から風を受けるのが密かな楽しみになっていた。
冷蔵庫にくっついたタイマーが甲高い音でパンの発酵が終わった事を知らせ、居間で本を読んでいたスマさんが「よっこらせ」と立ち上がった。
台所の前でスマさんが作業する様子を覗いてみると、棒状に伸ばした生地にソーセージが巻かれたものが、オーブンから出てきた。
僕はソーセージが大好きだ。ぷりぷりした丸いフォルムが少し見えただけで涎が出そうになる。
「あとはこれに卵を塗って……」
黄色いとろりとした卵液を塗り、再びオーブンに入れて焼き始める。
やがてパンの芳ばしくてほんのり甘い香りが漂う。
スマさんはオーブンのガラスの扉から中を覗き込み、満足そうに「そうだそうだ。今回は良い具合に出来てそうだねぇ」とにんまりする。
焼き上げたパンを天板ごと取り出し、少し高い所から机に叩きつける。今までで一番なくらい、良い焼き色が付いているように見える。
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