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ツクツクボウシが鳴く。
日が暮れると、ヒグラシが哀歌を奏でるようになっていた。
スマさんと歩く土手は、さらりとした風が吹き抜けている。もうすぐそこまで秋が来ているかのような、乾いた匂いがした。
黄金色に染まる空で、見上げたスマさんの顔も輝いて見える。
「もうすぐ夏も終わるねぇ。タロは楽しかった?」
もちろんだ。
言いたいのに言えないのがもどかしい。
僕は尻尾を振りながら口角を上げて見せた。
スマさんがそれを見て「ふふっ、そうかい」と笑う。
「夕焼け小焼けの赤とんぼー」
歌いながら、土手の下を指さす。
とんぼだ。
スイスイと夕焼けに溶け込むようにして飛んでいる。
「昔は子供とよく歌ったもんだよ。こうしてここで手を繋いでさ。そこの川沿いは春になると桜並木になってね。とても綺麗なんだよ。人生てのは、いつ終わりが来るかなんてわからないもんだよ。年功序列で死ぬなんてのは贅沢な事なのかもしれないね」
スマさんが指さしていた先では、男の子が父親とキャッチボールをしている。男の子が思い切り投げたボールが父親の頭の上を通過する。
「私の負けだよ」
楽しげな日常に、スマさんは目を細めて呟いた。
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