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寒さの厳しい年の瀬。スマさんは春を迎えることなく亡くなった。 『綾ちゃんを失ってあんたも悲しかったんだろう。娘が犬は引き取れなくて捨てたって聞いた時は驚いたよ。悪かったね、迎えに行くのが遅くなっちまって。私も寂しかったんだよ。私にとっても可愛い孫だったから。綾ちゃんは小さい時から休みの度に遊びに来ててね。玩具や工作やら絵が沢山あって捨てられなくてさ。気付いたらゴミ屋敷なんてね。あれはゴミじゃない。私にとって綾ちゃんとの想い出だよ』 か細い、震える声でスマさんは笑った。 そしてあのパン作りは、大人になった綾ちゃんが、パン作りに興味があると話していた事を思い出したからだと教えてくれた。 亡くなる一か月前に最後に作ったパンは、今までで一番ふわふわに出来た。 甘くて、柔らかくて、もっちりとしたパンにスマさんも喜んでいた。 『またタロに見送らせて悪かったね。ごめんね。でも、楽しかったぁ』   そう言って、スマさんは微笑んだ。僕の記憶のなかの綾ちゃんと同じ。目を三日月みたいに弓なりにして。 次第に呼吸が細く、弱くなる。僕はスマさんの頬に顔を寄せた。優しくて、甘い匂いがした。 かちかちのパンも美味しかったよ。散歩も、全部が楽しかったよ。 心の中で言った。 すぅっと、スマさんも息を引き取った。
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