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陽もすっかり落ちて、薄青い空に白い月が昇る頃。 家の中は見違えるくらい綺麗になっていた。 全て捨てるのかと思っていた物達は、スマさんが仕分けをして捨てるものと置いておくものと分けてから、片付けられた。 だから、あの謎の段ボールはまだ三箱は押し入れの天袋に入っているし、紙の束や古い本も数冊は残ったままだ。 ぬいぐるみは明日洗うのだと、今は洗面所に積まれてある。   くたくたの筈のスマさんは、変わらず背筋を伸ばしたまま「ほら、行くよ」と僕にリードを付けて家を出た。 「さぁ、明日からも忙しいよ」 紫色と青色、ときどきピンク色が絵具みたいに混ざり合う空の下をてくてく歩きながら言ったスマさんの声は、とても晴れやかだ。 端に皺を刻んで、あの月みたいに弧を描いた目。穏やかな笑顔を浮かべたスマさんに、僕の足取りも軽くなる。 「タロ。私と勝負しようか。あんたと私、どっちが長生き出来るか。もちろん私は負けないよ。年寄りだからって一日中畳の上で過ごすなんて御免だ。私があんたを看取るまで生きてやるさ」 夏の夜の虫が草むらで楽し気に鳴く夕暮れの土手を、気持ちの良い風が吹き抜ける。 僕が歩く度に揺れる尻尾とお尻を見ながら、スマさんがクスクスと笑っていた。
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