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けれど、それはこの日だけに終わらなかった。
なんと先輩は、翌日も、そのまた翌日もフクロウ関係の本を借りて帰ったのである。そして、その本には決まって栞が挟まれていたのだ。それも、フクロウのつがいがどういう行動をとっているかのページに。
おかげで、フクロウの――それも、つがいの生態や行動にはとても詳しくなれた。けれど……レポートか何かで先輩はフクロウのについて調べてでもいるのだろうか。そのテーマが「つがい」とか。そうじゃなきゃこんなこと……。
私は、先ほど先輩が返却した「梟ふくろうの全て」から顔を上げると、先輩の姿を盗み見る。
今日も今日とて、先輩はフクロウの本を読んでいるようで、タイトルは見えないけれど表紙には森の中にいるフクロウの写真が見えた。
うーん、と唸りながらもう一度手元の本に視線を戻しながら考える。少し前までは、どちらかというといろんなジャンルの小難しい話を読んでいたのに、どうして……。
「……ねえ」
「え……?」
その声に、私は顔を上げた。
そこには――フクロウの写真が表紙の本を持った、先輩の姿があった。
「な、なんですか?」
「それ、今日借りて帰る?」
「え、あ、は、はい!」
慌てて本を閉じると、私は立ち上がった。一秒でも早くこの場所から逃げ出したかった。きっとバレたのだ。このストーカーのような私の行動が。それを咎められるのだと思うと恐怖に足が震える。
でも、先輩はニッコリと笑うと私の手から本を取り上げた。
「なに……」
「昨日、これ挟むの忘れちゃってさ」
先輩の手には、あのグレーの栞があった。パラパラとページをめくった先輩は、目当ての個所を見つけたのかその栞を挟むと私に渡した。
「じゃあ、またね」
意味が分からない私に背を向けると、先輩は歩き出した。
いったい、何が起きたのか。そして、あの行動の意味はなんだったのか……。
とにかく、栞の挟まったページを見てみよう。そう思って本に手をかけた私の手を誰かが止めた。
「ダメだよ」
「っ……せん、ぱい……?」
「それは、帰ってから。ね?」
有無を言わさぬ物言いに、慌てて頷くと「いい子だね」と先輩は微笑む。そして、ポケットから何かを取り出すと、私に言った。
「口、開けて」
「え……?」
「いいから」
戸惑いつつも口を開ける。そんな私の目の前で、先輩は手の中の何かの包み紙を開くと、私の口へと放り込む。
それは、甘くて優しい味のする……。
「イチゴの、キャンディー……?」
「正解。……それがどういう意味か、その本を読んで明日までに考えておいて。宿題だよ」
「宿題って……」
どういう意味なのか尋ねようとした。けれど、先ほどの先輩の行動が、私の頭を真っ白にさせて身動き一つとることができない。そんな私ににっこりと微笑むと、先輩は図書館を出て行ってしまった。
残された私は、そのまま閉館のお知らせが流れるまで立ち尽くしていた。
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