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戦争が終わったのは、それから実に十年後であった。
夏の太陽に熱せられた地面からゆらゆらと陽炎が立ち上る中、直人は帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい……!」
私が二十六歳、直人が二十七歳の時に結婚をした。
結婚生活は決して裕福とは言えなかったが、すぐに子宝にも恵まれ、私は幸せだった。
これまでにどこぞ城の姫になったこともあるのに、こんな幸福感は得たことがない。
人間は愛し、愛されることでこんなにも幸せになれるのだと、初めて知った。
「私たちもとうとう、おじいちゃんとおばあちゃんになるのね」
ふたりの子どもたちが結婚し、初孫が生まれると報告を受けた時は感慨ひとしおであった。
この時、私は五十歳。過去この年齢まで生き残れてこなかった。
「ああ。曾孫を見るまでは元気でいたいな」
直人は初めて出会った時と同じ笑顔を見せてそう言った。
「任せて下さい。あなたの健康管理は私がしっかりとやりますから」
「頼りにしてるよ。お互い百まで生きよう」
永遠にも思えた時に限りがあるのだと思うと、一日一日があっという間に過ぎ去って行った。
神様に〝次が最後ですよ〟と言われた時は、これで終われると思ったのに、今は終わりが来るのが怖い。
もっと生きていたい。
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