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「なあ拓海」 「…」 「なあって」 弘也は無視する拓海の肩を叩く。 「んだよ、授業中だぞ」 「授業って言ったって自習だろ。なあなあ、それよりこの世で一番怖い生き物ってなんだと思う」 「知るかよ、興味ない」 「俺が思うにこいつだと思うんだよ。じゃじゃーん」 そう言って弘也は本を開いて見せてくる。 そこにはありきたりな容姿の化物。 「なんだそれ」 「えーと、アレキサンドログレリアプリプリプリウス」 「なっげ」 「グローバルトマト…」 「まだあんのかよ。てかそういう本ってさ、この学校持ってきちゃ駄目じゃなかったっけ」 無視して本を読み続ける弘也。 「それよりさこれ見てよ。こいつさすっごい大きいの。んでめっちゃ硬くて黒くてさ」 「下ネタかよ、」 「え、違うよ」 逆に恥ずかしい。 「他にもさ、こいつ長い爪持っててさ。絵書いてよ、拓海絵上手いだろ」 いろいろなページを見せられる。 「後このページのこのシーンとかさ」 飛び散る鮮血。 「人の生き血を吸って生きてるんだ」 何度も擦れた傷跡は黄色く変色している。 「なあ聞いてる」 潰れた腕には無数のタイヤ痕。 「なあって」 「興味ないって」 拓海は大声でそう言って、勢いのまま思わず席を立つ。 「いきなり大きな声出すなよ」 「ご、ごめん」 「いや俺も悪かったけどさ」 「で、なんだっけ」 少し落ち着いたし、どうせこのまま勉強に集中できないと思い聞くことにした。 「お、少し興味出てきた」 「ま、まあな」 「拓海はどれが一番怖いと思うよ」 拓海は弘也を指さす。 「おれ?」 ゴン。 「いって」 「弘也くん。何やってるの自習の時間でしょ。しかもこんな本学校に持ってきちゃ駄目でしょ。没収します。」 担任の谷口風花先生。 「えー」 くすくすと拓海が笑う。 「それとさっき大声出したのは誰。職員室まで聞こえたわよ」 「拓海です」 弘也が平然という。拓海の笑いが止まる。 「もう。君たちは先生が居ないと自習もできないの。とにかく二人は放課後職員室。本もその時返すわ」 先生はひとまず教室を離れる。 拓海は改めて机に向かう。 「…」 「…」 「なあ拓海」 「…」 「拓海」 「はあ、なに」 「ごめんな」 「先生呼んだの俺みたいなもんだし気にすんなよ」 「ひとつ聞いていい」 少し怯えた様子の弘也。 「後でじゃだめ」 あくまで勉強しながら返す。 「わかった」 弘也はその時だけ妙にすんなり引いた。
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