第3話 売られたケンカは倍で買います

3/4
4050人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
「そうそう、昨日のコーヒー。おかげさまで、スーツはクリーニング行きです。ネクタイも、もうダメなんじゃないでしょうか」 「あー、ちょうどいいんじゃない? あのネクタイ、私があげたやつだから。捨てちゃって」 「……」 あ、またむっとした顔になった。ホント、わかりやすい子。 「とにかく透さんが選んだのは、私なんですから、もう未練がましいことしないでくださいね」 結局は、これが言いたかったのか。 未練ね。未練はすっかりなくなった。たった一晩で。自分でもびっくりするくらい。 けど、私はまだあなたと透にやらなきゃいけないことがある。 「急に決まった結婚だけど、挙式や仕事はどうされるつもり?」 「…まだそんな具体的な話には」 「あら、そう。けど、すぐにお腹大きくなっちゃうし、大変ね。良かったら、私たちが予約した式場使ってくださいね。キャンセル料ももったいないでしょうから」 もちろん使わなくっても、キャンセル料なんて、私は一円だって払わないけどね。 100%自己都合なんだから、自分でやれ、透。 そして、この子にはわからせたい。 自分がしでかしたことの大きさを。そして、透が失ったものの多さを。 「結構ですっ」 憤慨したまま、美雪はくるっと踵を返す。あんなに勢い良く突っ込んで来たのに、もうおしまい? 寧ろ物足りない。 けど。美雪が乗り込もうとしたエレベーターから、降りてきたのは透だった。 元婚約者と今カノ。二人の女の姿を認めて、透は地獄にでも辿り着いたような顔をした。 あーまた、めんどくさいことになりそう…。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!