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「そうそう、昨日のコーヒー。おかげさまで、スーツはクリーニング行きです。ネクタイも、もうダメなんじゃないでしょうか」
「あー、ちょうどいいんじゃない? あのネクタイ、私があげたやつだから。捨てちゃって」
「……」
あ、またむっとした顔になった。ホント、わかりやすい子。
「とにかく透さんが選んだのは、私なんですから、もう未練がましいことしないでくださいね」
結局は、これが言いたかったのか。
未練ね。未練はすっかりなくなった。たった一晩で。自分でもびっくりするくらい。
けど、私はまだあなたと透にやらなきゃいけないことがある。
「急に決まった結婚だけど、挙式や仕事はどうされるつもり?」
「…まだそんな具体的な話には」
「あら、そう。けど、すぐにお腹大きくなっちゃうし、大変ね。良かったら、私たちが予約した式場使ってくださいね。キャンセル料ももったいないでしょうから」
もちろん使わなくっても、キャンセル料なんて、私は一円だって払わないけどね。
100%自己都合なんだから、自分でやれ、透。
そして、この子にはわからせたい。
自分がしでかしたことの大きさを。そして、透が失ったものの多さを。
「結構ですっ」
憤慨したまま、美雪はくるっと踵を返す。あんなに勢い良く突っ込んで来たのに、もうおしまい?
寧ろ物足りない。
けど。美雪が乗り込もうとしたエレベーターから、降りてきたのは透だった。
元婚約者と今カノ。二人の女の姿を認めて、透は地獄にでも辿り着いたような顔をした。
あーまた、めんどくさいことになりそう…。
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