第1話 天国から地獄に突き落とされました

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思考の全てがフリーズした。 ケッコンヲハクシ…? 何それどういう意味だっけ。 つまり、私との結婚をなかったことにするとか、そういう話? 思わず立ち上がって、上から透を見下ろした。 「なんでよ! どういうこと?」 胸につかえていた言いにくいことを、言ってしまったせいか、今度は透の方が冷静だった。 「咲良には心から悪いと思っている。けど…好きな人が出来た」 透の話は全く理解できない。 まるで違う文化の人と商談でもしてるみたい。 私と透は恋人同士で、一生一緒にいる約束をして、もうじき結婚する――そんな幸せな時期じゃなかったの? 今日はああだこうだ言いながら、ハネムーンの計画を立てる、そんなラブラブな2人じゃなかったの? 私と透の関係を、前提から見つめ直さないといけないみたい。 腸が煮えくり返る、ってこういうことなんだ、って慣用句の意味を身を以て知る。 身体中の血が逆流してるみたい。ぐつぐつ滾る怒りのオーラをどうにかして鎮めながら、私は透に聞いてみた。 「…好きな人って誰?」 ダイレクトな質問に、透はまた視線をテーブルに落とす。 相手のことを気遣ってる態度が、また私をイラつかせた。 「私の知ってる人?」 「…いずれわかるよ。だから…」 「いずれわかるんだったら、今言いなさいよ!」 人前でなかったら、ネクタイ掴んで引っ張るくらいはしてただろう。 重低音をこれでもかと響かせて、私は透に詰め寄った。 「大きい声出すなよ」 周りの様子を窺うフリをして、透は私から視線を逸らす。 けど、私は透から視線は逸らさない。無言でたっぷり30秒。 逃げきれないと悟ったのか、透はため息と共に白状した。 「総務の白井さん」 ああ、あの子か。白井美雪。仕事はとろくて、ミスが多くて。だけど若くてかわいいからと、何かと庇ってもらえる子。 「…付き合ってるの?」 婚約者に対して、何聞いてるんだろ、私。けど、私の不適切な質問に、透は信じられない回答をしてきた。 「彼女の胎内には、今、僕の子どもがいる。3か月になるそうだ」
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