4088人が本棚に入れています
本棚に追加
思考の全てがフリーズした。
ケッコンヲハクシ…?
何それどういう意味だっけ。
つまり、私との結婚をなかったことにするとか、そういう話?
思わず立ち上がって、上から透を見下ろした。
「なんでよ! どういうこと?」
胸につかえていた言いにくいことを、言ってしまったせいか、今度は透の方が冷静だった。
「咲良には心から悪いと思っている。けど…好きな人が出来た」
透の話は全く理解できない。
まるで違う文化の人と商談でもしてるみたい。
私と透は恋人同士で、一生一緒にいる約束をして、もうじき結婚する――そんな幸せな時期じゃなかったの?
今日はああだこうだ言いながら、ハネムーンの計画を立てる、そんなラブラブな2人じゃなかったの?
私と透の関係を、前提から見つめ直さないといけないみたい。
腸が煮えくり返る、ってこういうことなんだ、って慣用句の意味を身を以て知る。
身体中の血が逆流してるみたい。ぐつぐつ滾る怒りのオーラをどうにかして鎮めながら、私は透に聞いてみた。
「…好きな人って誰?」
ダイレクトな質問に、透はまた視線をテーブルに落とす。
相手のことを気遣ってる態度が、また私をイラつかせた。
「私の知ってる人?」
「…いずれわかるよ。だから…」
「いずれわかるんだったら、今言いなさいよ!」
人前でなかったら、ネクタイ掴んで引っ張るくらいはしてただろう。
重低音をこれでもかと響かせて、私は透に詰め寄った。
「大きい声出すなよ」
周りの様子を窺うフリをして、透は私から視線を逸らす。
けど、私は透から視線は逸らさない。無言でたっぷり30秒。
逃げきれないと悟ったのか、透はため息と共に白状した。
「総務の白井さん」
ああ、あの子か。白井美雪。仕事はとろくて、ミスが多くて。だけど若くてかわいいからと、何かと庇ってもらえる子。
「…付き合ってるの?」
婚約者に対して、何聞いてるんだろ、私。けど、私の不適切な質問に、透は信じられない回答をしてきた。
「彼女の胎内には、今、僕の子どもがいる。3か月になるそうだ」
最初のコメントを投稿しよう!