第4話 辞表は切り札に

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「あ、何だ、咲良! 久しぶり!」 ぶつかった相手が私だとわかり、菜津子はほっとした顔になる。そして気は急いでいるものの、私と話したい欲求もあるみたいで、その場に足踏みしてとどまってる。 「久しぶり! やだ、私、話したいことが…」 私も一瞬状況を忘れて、菜津子を呼び止めてしまう。 彼女は私と同期。…と言うか、面接の時からの仲間だ。 同じ日に最終面接で、お互い励まし合って、4月1日入社式で感動の再会を果たした。 ちょっとルーズで慌てん坊だけど、気さくでおおらかで話しやすい。 会社に入ってからも、一番の仲良しだ。 「惚気? だったら聞いてる暇ないよん」 「や、惚気じゃなくて…今日! 暇? 時間あったら帰り、うち来てよ」 「ん~多分大丈夫。って咲良は? 今から外回り?」 「違うの、私今日から有給もらって3日間お休みなの」 「え、何、それ。いいなあ」 菜津子の足は完全に止まってる。やばい、このままだと、エレベーター前会議が始まってしまう。 「いや、だからさ、いろいろあったんだって。今夜ゆっくり話すから」 「わかった、じっくり聞いたげる」 菜津子はそう言って、慌ただしく経理課の方に走っていく。 菜津子と入れ違いに私はエレベーターに乗り込む。 1階に降りて外に出ると、6月とは思えないくらい、強い日差しが降り注いでいた。 (ん~、暑くなりそう) 伸びをして、陽射しを目一杯吸い込んだ。 この3日間、無駄には出来ないけど、まずは…。 向かうと決めてた場所に足を向ける。 戦士にだって休息は必要だもん。
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