第1話 天国から地獄に突き落とされました

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「はああああ?」 実はこれ、私が見てる夢なんじゃないかな、そうであってほしい。 罵る言葉も出てこない私に、透は更に続けた。 「別れてほしい」 コーヒーとアイスオレを横にどかして、透は両手をテーブルについて、深々と頭を下げた。 気が付いたら私、立ったままだった。 透の襟足がまざまざと視界に入って、やっとそのことに気が付いて、私は席に座り直す。 「いつから?」 「へ?」 「いつから白井さんととそういう関係なの?」 「ああ…。年度末に僕が仕事でトラブって、咲良にフォローしてもらったことがあっただろ?」 「あったっけ」 「あったの!」 ああ…取引先から透にダイレクトにされてた注文、発注してなかったアレかな。 「けど、アレだったら…私が工場に直接掛け合って…」 「そう、咲良に助けられたよね。お前のカミさん、有能でいいな、って、俺、フロアの奴ら全員にからかわれた」 「…事なきを得たからいいじゃない」 何で透が傷心な顔してるのか、理解できない。 「あのさ、咲良には男のプライドとかわかんないの?」 「……」 あの時、確かに私がフリーで一番動ける立場にあったから、会社から即社用車飛ばして、工場まで駆けつけたんだけど、それは透の役に立ちたい、って思いもあったからなのに。 こんな何か月も経ってから、なんで実はあの時『僕のプライド傷つきました』みたいな言われ方しなきゃいけないの? 「落ち込んでた俺を白井さんが慰めてくれたんだ」 「…ベッドで?」 「…いや、バーで飲んでて、白井さんを家まで送って行ったんだけど、その時…部屋まで上がってください、ってなって…」 「そこは遠慮しろよ」 「俺も軽率だったなと思うんだけど」 「で、ヤッちゃったんだ」 「そういう言い方やめろって。まあ、俺も彼女も酔ってたし、流れで…」 「流れで避妊もしないでヤル?」 「…さ、咲良。ここ、人目もあるんだから」 透が周りを気にして、私に声のトーンを落とせと言う。 誰より外聞悪いことしてるのに、今更誰に気を遣ってるんだ、この男。 「避妊はしたよ! ちゃんと。彼女の家にあったゴムで…」 「針で穴でも開けてたんじゃない?」 「咲良!」 だって、変じゃん。私とだって何回も何回もことに及んでたのにさ。 「何回?」 「え」 「何回ヤッたの?」 透は大きくため息をつく。とは言え、私の蓮っ葉な表現を改めさせるのは諦めたらしい。 「その時含めて3回」 「ふーん」 頬杖ついて、私は透の顔を意地悪くじろじろ見た。 「本当に咲良には悪いと思ってる」 「……」 だったら。さっきのばかな発言撤回しなさいよ。 そんな言葉が喉まで上がってきては、胸に押し戻される。 透が発言撤回しても、婚約破棄を破棄して、予定通り私と結婚することになったとしても、きっと透の気持ちは、私にはもうないのだし、私もここに来る前と同じ重さで、透のことは愛せない。
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