エピローグと言う名のプロローグ

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エピローグと言う名のプロローグ

「ありがとうございました」 冴木さんに言って、私は深々と頭を下げた。 陽当たりが良すぎて、夏場は気温が上がり過ぎるとかで、今日は遮光性のカーテンが引かれ、昼間なのに室内は薄暗い。 あのごたごたの交渉から1か月。 今日やっと、透から慰謝料が満額振り込まれてきたのだ。ボーナス日の次の日ってとこが、財布事情丸見えで笑えるけど、お金に罪はない。 「本当にお世話になりました。これ今回の依頼料です」 私はさっき銀行で降ろして来たお金が入った封筒を冴木さんに渡した。 「ありがとう。なんか悪いわね。私への報酬払ったら、たいして残らなくなっちゃうでしょ」 「いえ、そんなことは…それに、金額の問題ではなかったので。やっとこれで、悪夢から目覚められた、って感じなんです」 「うん、すっきりした顔してる、咲良ちゃん」 そう言われて、つい顔が緩んでしまう。 そして私は2週間前のことを思い出していた―― ――あの日、2人の女の間で都合良く立ち回ってたことがバレて。 「――透…?」 「透くん…?」 前方からとサイド。二人から名を呼ばれて、透はもう学校で立たされてる生徒みたいに、泣き出しそうな情けない顔になってた。 「どういうこと…?」 「彼女さんに浮気されてるかも、って言ってましたよね?」 「か、かもしれない…ってだけだし」 「それで美雪の同情引いたってこと? で、更にそれをネタに慰謝料減額要求してきたってこと? せこっ」 「サイテー…」 2人の女から口々に責められて、透は更にちっちゃくなって、「ごめんなさい、ごめんなさい」繰り返した。 示談書もその場で書かせて、判を押してもらって、一応私と透の交渉は成立。 美雪の方も、梵さんと光さんで、こういうケースには慰謝料が発生するって、綿々と説き伏せられ、最後にやっと「ローンでの支払いでもいいですか?」って言わせられた。 いろいろ思うところはあるけど、法的にも社会的にも、透に制裁加えられて、ちょっとだけ胸のつかえが降りた。
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