エピローグと言う名のプロローグ

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だけど、当然だけど美雪と透はその後もひと悶着あったみたい。 美雪の仕事の問題だ。 美雪は寿退社を決め込んでいたのに、透の方から「収入が減りそうだし、私への慰謝料は親からの借金で払ってるから、いずれ返さなきゃいけない。だから君も働いて欲しい」って懇願されて、また揉めたとか。 最初は別れ話も美雪の方から出たくらいなんだけど、子どものこともあるから、当たり前だけど別れられなくて、結局渋々結婚することにした――ってのは、経理の奈津が美雪と同期の子から小耳にはさんだ話を教えてくれた。 そりゃ、あんな情けないとこ見せられた上にそんなこと言われたら、、百年の恋も冷めるわ。 しかもこんだけばたばたの結婚で、美雪はただでさえ、会社に残りにくいのに…って、同期の子に愚痴をこぼしてるみたいだけど、はっきり言って自業自得だし。 私としては、とっととやめて欲しかったけど、美雪を通して、透のその後がわかるのは、ちょっと楽しみ。気分はすっかり被害者から傍観者だ。 私と透はもう職場が変わって、接点なくなってわからないけれど、どうもあの日から、完全に美雪の方が立場が上になっちゃったらしい。 他人事ではあるけれど、この先あの2人大丈夫なのか? って心配になっちゃう。 「咲良ちゃん、頑張ったからね」 「いえいえ光さんのおかげです」 お互い相手をたたえ合って、くすくす笑い合う。 「明日、結婚式なんですってね」 「あれ、マスターに聞いたんですか?」 私が聞くと、冴木さんはふふっと笑った。どうやらそうらしい。 「そうなんです。だからこれから、美容院行こうと思って」 「あら、じゃあ引き留めちゃ悪いわね。行ってらっしゃーい」 「はい。行ってきます」 明るい冴木さんの声に背中を押されるように、事務所を後にした。 しばらく彼女に会うことはないのかと思うと、ちょっと寂しいな。
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