エピローグと言う名のプロローグ

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「ま、正確に言うと、『来れない』が正しいのかな。招待状は出したみたいなんだ」 「あ、そうなんだ」 「招待状には、丁寧なお断りの文章が綴られてたんだけど、ノリくんの方には、かなり愚痴っぽい電話来てさ。咲良も来るし、他の同期もいるのに、みっともなくて出られるわけないだろ、って」 みっともない、って…。同期に後れを取ったから? 変わらないなあ、見栄っ張りなとこ。 「ノリくんは製品部だからさ、工場の方にもちょいちょい行くらしいんだけど、評判悪いみたいだよ。大したことないのに、すぐ休んだり。工場のパートさんまで残業してるのに、平気で自分だけさっさと帰っちゃったり」 「マジで?」 「ヤル気ないんだろうね」 「美雪はおっきなお腹で頑張ってるのに」 「旦那がそれじゃ、頑張らざるを得ないだろ~。ま、宮本にしても、元々無気力だったわけじゃなくて、環境に不満があってなんだろうけど。や~、人生の歯車って一度狂っちゃうと怖いね、咲良」 う~ん、確かに。 透って、順風だといいんだけど、逆境をはねのける力はないんだろうなあ。一度落ちても、また這い上がろうと言う根性がない。 式前の記念写真を撮るために、菜津子は控え室から、ガーデンの方に移動するらしい。 「じゃあね、咲良。今日は楽しんで行ってね。ブーケ投げるからね」 嬉しい予告をして、菜津子は介添えさんと行ってしまう。 30分後にゲストハウスウェディングが始まる。 綺麗なドレスで、幸せそうに同期の典也と歩く菜津子を見て、私だって今頃、結婚式挙げてたんだな…って、本来の予定を思い出したけれど、焦燥感や嫉妬はなくって、何でだか自然にマスターの言葉を思い出していた。 「一番の復讐は、御園さんが彼のことを忘れて幸せになることだと思いますよ」 私が、今度こそ一緒に幸せになりたい人は――諸々の感謝と一緒に、今の私の気持ちを伝えたら、カウンターの向こう側のあの人は、どんな顔するのかな。困ったように笑われるだけなのかな。
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