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「お、来てたのか」
式が終わると、ガーデンでデザートビュッフェが始まってて、スイーツを取りに並んだ私に、課長が声を掛けて来た。
「うわっ」
「なんだよ、お化けでも出たみたいな顔するな」
「おばけでも課長でも、突然出てきたらびっくりします。課長も、来てたんですね」
おー、珍しくぱりっとしたスーツ着てる。フォーマルなカッコしてると、そこそこカッコいいんだから、もっと普段から気を使えばいいのに。
なんて、甚だ余計なことを考えてしまう。
「新郎は新入社員の頃、よく面倒見てたんだ。大学も後輩だしな」
「あ、そうなんですね」
「いい結婚式だな」
「そうですね。菜津子達らしい、のんびりとしたムードの中で、ゲスト一人一人をもてなそうって気持ちが、あちこちにあって…」
あったかくてアットホームな式。
「その分じゃ平気そうだな」
「え」
「いや…密かに落ち込んでやしないかと思ってな」
「大丈夫ですよ」
「そうみたいだな」
「私…多分、透と結婚すれば幸せになれる、って思い込んでたんですよね。付き合ってるから、結婚するのが当然の流れだ…みたいな考えに縛られてて、透の本質全く見えてなかった」
「まあ、失敗から学ぶことも多いってことだ」
そう言って課長は、私の髪をくしゃくしゃする。
「やめてくださいよ~。これでも美容院できっちりセットしてもらったんです」
「あはは。馬子にも衣装だな。なあ、御園」
「はい?」
課長に乱された髪を直しながら、私は課長を見上げた。課長は珍しく、鼻の下を擦ったり、あ~って発生練習したりして、なかなか次の言葉を出してくれない。
そうこうしてるうちに、花嫁のブーケトスのタイミングになってしまった。ブーケ、受け取らないと。
菜津子は私に手を振ってから、くるっと後ろを振り返る。
何人かの女の子が、菜津子の周りに群がる。
ブーケが高々と、青い空に舞い上がって、私は白い花束に手を伸ばす。菜津子が私の方に投げてくれたのと、167センチの上背のおかげで、無事にゲットして、課長のところに戻る。
「取れて良かったな」
「はい。あ、課長、何を言いかけたんですか?」
「あー、だから、お前、俺と結婚するか?」
……はいぃぃぃ?
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