第4話 辞表は切り札に

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第4話 辞表は切り札に

「…ウエディングハイ? マタニティハイ? …あの子、大丈夫?」 透を庇うつもりはないけれど、つい同情してしまう。 あの子、周り何も見えてない。 「…白井さんは君みたいに賢くないし、今は特に有頂天になってるのかもしれない」 「そう。あなたは? 白井さん程は浮かれてないみたいだけど」 「…昨日、初めて君との婚約を解消したことを両親にも話してね」 「…何か言ってた?」 私が聞くと、透は力なく苦笑いする。 「勘当される一歩手前…ってところだよ。母親は泣くし、父親からは追い出されそうになるし」 「…私も透のご両親とはうまくやっていける自信があったから残念」 チクリと刺すと、透は深くため息をついて、肩を落とした。 その態度だけで、昨日の宮本家でのバトルの壮絶さが察せてしまう。 とてもじゃないけど、あの子が行儀作法や言葉遣いにうるさい、透のお母さんのお眼鏡にかなうなんて思えないもんなあ。 「咲良、今週の日曜、君と…ご両親の予定空いてる?」 「…多分」 「空けておいて欲しい。」 「わかった。うちの親には私から伝えておくね」 透のわが家への来訪の目的はつまり…あれだよね。 他のお嬢さんに手をつけて、妊娠させてしまったので、婚約を破棄させてください、って。 お嬢さんを僕にください、って言った時には、透を殴らせてくれ、なんて言わなかった温厚な父だけど、今回はどんな風に言うんだろう。 「…ねえ、あと会社には、まだ何も言ってないよね?」 社内恋愛で、同じ部署同士の結婚。もう既に社内では知れ渡っているし、特に営業部の部長には、主賓をお願いしてしまっている。まだ招待状の発送も済んで、営業課の仲間や同期には、結婚式の余興のお願いなんかもしてしまっている――そんな時期。 身内以外に、まだ会社方面にも、片付けなければいけない問題があったか――と、思い出させられて、透は更にうんざりした顔をした。 内に秘めてた一大決意を、昨日私や家族に口にしたことで、それが一気に現実になる。 そして、その現実がもたらす周囲への影響に、透はやっと気が付いたらしい。 昨日まではきっと、美雪との秘密の恋に浮かれてたんだろうけど、一気に熱が冷めたのかな。 …これくらいのこと、覚悟もしないで、大それたことしようとしてんじゃねえよ。 あんたは、私のこれからの人生を大きく狂わせて、これまでの恋愛観も木っ端みじんに打ち砕いてくれたんだから。 今ここで、土下座して謝られたって、許すつもりなんて、毛頭ない。当たり前よね。
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