武田和泉 20歳 独身 彼氏無し

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武田和泉 20歳 独身 彼氏無し

リビングから繋がるウッドデッキに出て 目の前にそびえるホプシーの木を見上げる 今年で樹齢20年を迎えたホプシーは美しく その姿はいつも私に元気をくれる 4月とはいえ肌に感じる風はまだ冷たい 深呼吸してから 急いでリビングの窓を閉めテーブルに着いた 「和泉、早く食べないと会社遅れるわよ」 台所から母の声 「和泉ちゃん、ゆっくり食べて良いよ  パパの車で送って行くからね」 食卓の向かいに座ってにっこり笑う人 私が京太郎父と呼ぶ 母の再婚相手だ 私の父は私が7歳の時に病気で亡くなった 心臓疾患で発見が遅くあっけなくこの世を去った 父との思い出はあまりないが とにかく優しい人だったことは覚えている 私が生まれた時 父が庭に植えてくれたホプシーの木 その木の下に立つと 今も父が見守ってくれているようで安心した 父がそれなりの資産を残してくれたとはいえ 母は女手一つで仕事をしながら 私を育て上げるのは大変だったと思う そんな母も私が大学へ上がる頃から 趣味を見つけて自分の時間を作るようになった 本好きだった母が選んだのは俳句だった 俳人の 青葉翠さんに師事し 「山科」という句会にも参加した 週末になると俳句仲間を誘い吟行に出かける やっと生きがいを見つけたように生き生きしだした
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