口づけとひこうき雲

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 煙草の煙が空に吸い込まれるように消えていく。生まれて初めて吸った煙草に一口目はむせて咳き込んでしまったものの、三本目に火をつけた頃にはすっかり慣れてしまった。僕にも案外不良の素質があったのかもしれない。施錠された屋上のドアをこじ開けて、授業をさぼって屋上で煙草を吸ってるなんて、これまで優等生としてやってきた僕を知る全ての人が目を疑う光景だろう。 「もう死ぬんだからどうでもいいけどねー」  即興で作った節に乗せて内容のない歌詞を口ずさむ。その場に仰向けに寝転がるとひんやりとしたコンクリートの冷たさが背中に伝わってきた。太陽はずいぶん高く上がり、僕の人生のタイムリミットがもう少しだと知らせてくれる。  定岡伸弘、というのが僕が自殺をする原因となった男だ。遺書は両親に宛てた簡素な感謝と謝罪の文面しか用意しなかったが、クラスの誰もが僕の自殺の原因に心当たるだろう。  校舎裏と部室棟に挟まれた地上のどこからも死角になるスペースがこの学校にはあって、定岡は毎日昼休みになるとそこで仲間達と煙草を吸ったり、気に食わない奴を連れ込んでボコボコにしたりしている。伝統的に不良達のたまり場になっているにもかかわらずなぜ学校はそれを放置しているのか、それとも把握していないのか、そんな疑問は残るがそれももうどうでもいい。大事なのはそこが今僕が寝転んでいる真下だということだ。いつも通りに現れた定岡めがけて、飛ぶ。上手く巻き込んで彼が死んでくれたらラッキーだし、その難を逃れても一生のトラウマを残せるだろう。もうすぐ三時限目が終わる。僕は仰向けのまま煙草の箱に手を伸ばした。
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